
私のような通常の外国人が、
この街で自ら車のハンドルを握ることの危険性はいうまでもない。
無防備のバイクとなるとなおいっそうである。
運転手頼みの生活が日常となっている私にとって、
バイクに乗ることは未知への挑戦であり「
デビュー」の心境であった。
エアコンのきいた後部座席の窓越しから見るジャカルタの街とは別世界だった。
まず気をつけたのが街路のコンディションだ。
路側の未整備や欠落はまだましだ。
通常の走行帯にもアスファルトの陥没がままあり公然と放置されている。
「ポリシティドゥール」(道路の表面が波のように隆起している箇所、人工的に造作している、緩衝ポイント)は、
走行中の一定のスピードでは認識しづらく、こちらの反応が遅れれば、
車体も前に吹っ飛ばされそうになり、何度も肝を冷やした。
休憩ポイントをいくつか確保しておくことも必要だ。
車・車・車の波にいったん飲み込まれたら、いやがおうでもそれに身を任すしかなく、
次にどのタイミングで、どこでバイクから降りて休憩できるか予測が難しいからだ。
まして運転新参者

は、地理や方向に疎く、一方通行やUターンポイントがつぶさにわかるわけではない。
「思えば遠くへ来たもんだ」どうやって家まで帰ればいいのだろうと焦ることもある。
真上から直射する日差し、
猛烈な排気ガスと粉塵(喉と鼻を守るためマスク代わりのバンダナを巻いているバイクの運転手も多い)、
無秩序で、ある意味暴力的な交通事情に対抗すべく、運転者には体力と精神力が要る。
実際、この街で日中にバイクを運転するにはかなりの体力と気力を消耗した。
わずか1時間、市街地を走るだけでも相当疲れるのだ。
日本なら1時間も走れば相当な距離だ。
ジャカルタの市街地では、単位時間当たりの走行距離がとてつもなく短い。
フルフェイスのヘルメットは、日本人だと気づかれないという意味では良かったが、
日中は痛いくらいの日差しを脳天から受けるからさすがに暑く、息苦しい。
全身から汗が噴き出す。路面から漂う埃くさい乾いた熱風が追い討ちをかける。
いたたまれずどうにか安全な場所を見つけて停車する。
不慣れな地域なら、日陰がある適当な場所を見つけるのも一苦労する。
道端のワルンでテーマニスを買って水分補給、
メットを脱いで、
マイルドセブンを一服、ようやく腰も伸ばせる、さすがにこの瞬間はたまらない。
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