ドドンさん。彼は我が家の初代警備員である。
私の同僚の運転手の弟だ。
仕事がないので雇ってくれないかと、
兄(インドネシア人の運転手)が主人(わが同僚)を通じて、話を持ってきたのだ。
こういうことは当地ではよくある。
友人、親類、縁者、一族郎党のコネクション、ネットワークが強固で、相互扶助の精神もある。
「私の友人の○○をメイドとして雇ってくれないか、雇ってくれそうな人を紹介してくれないか」等々、
「お願い」もよくされる。
このネットワークを通じて、逆に、私達外国人が使用人募集の公知に利用することもある。
「こんな人を探してるんだけど、いい人いないかな?」とメイドに相談すると、
数日のうちに、当該求人の面接に、応募者がとことこやってくる。…なんてこともざらだ。
携帯電話を庶民の彼らが容易に持ちうるわけでもない。
あらゆるコミュニティで、専ら口コミでの情報交換だ。
これが実に機能する。NETの掲示板よりすごいのじゃないか。
恐るべしインドネシア。

職種、地域、血縁、知人、同郷、井戸端会議、
単なる顔見知り等を縁として、縦横無尽の比類なきネットワークが隠然とある。
30代前半(たぶん)、独身、痩身長躯、ちょび髭、指輪、慇懃、
デンゼル・ワシントンを小顔にし、オバマ大統領の相貌を加味したかのような、
重病の母への思いをよく語り、その介護にも勤しんでいた…
ドドンさんは、そんな男だった。
警備員と運転手では職としてのステイタスが格段に違う。
(運転手は使用人としては結構な高給取り)
運転手としての経歴がなかったので、かなり思案を重ね、私は決断したのだ。
彼を運転手に抜擢しようと。
(初代運転手スプノーさんには、少なからず問題もあったので、やむを得ず)
少々の運転技術の未熟さは目を瞑って、私が運転技術を教えようと考えた。
殊勝な彼は、車の免許を、自己資金で賄って取得した。
(日本の教習所のような、赤子に歩くのを教えるような、
ありがたい施設は、世界にはあまりないだろう)
すなわちこの地で、免許を取得したといっても、最初はペーペードライバーということだ。
免許は「取得するのではなく買う」。このほうが実情に近いと思う。
ジャカルタのルート情報も、これから覚える必要がある。
私や家族にも当面煩わしいことがあるだろうが、しばしは我慢だ…。
実直な彼の人柄に触れるうち、情が沸いてきたのだ。
この年で警備員専属では、家庭を築くのもままならないだろう。
少しでも男として独り立ちさせてあげたいと。
